札幌国際芸術祭に行って感じた、都市の歴史とメタ的コミュニティのあり方

Pocket

IMG_1071

先日、出張で札幌を訪れる機会があり、ついでに現在開催中の札幌国際芸術祭2014を見て回った。

札幌国際芸術祭は、札幌初の国際的なアートフェスティバルとして、7月19日(土)から9月28日(日)まで開催されている。開催テーマは「都市と自然」。都市と自然の共生を考えるもので、札幌市内各所でプロジェクトなどが展開。札幌全体がこうして芸術祭の舞台になるのは札幌の歴史としては始めてのもので、行政もサポートしながら第一回目を大成功に導こうと取り組んでいる。

主な会場は北海道立近代美術館や札幌芸術の森美術館、札幌駅前の地下歩行空間(チ・カ・ホ)やモエレ沼公園など、さまざまな場所で行われている。一日で回るのは大変なくらいの作品数とそれぞれの開催場所の点在さが、逆に札幌市内の山や都市部をじっくり見て回る良い機会にもなりそう。

札幌国際芸術祭の会場の、北海道立近代美術館へ。

札幌国際芸術祭の会場の一つである北海道立近代美術館は、札幌の中心部から西に少し移動した場所にある。大通り公園から15分ほど歩いたところにあり、市内を散策しながら行くことをオススメする。

坂本龍一さん+YCAM InterLabによる「フォレスト・シンフォニー」。こちらは坂本さんと真鍋大度さんによる電磁波を可視化するインスタレーション #札幌国際芸術祭

札幌市内から北上したところにあるモエレ沼公園。そこにあるガラスのピラミッド内に展示してある坂本龍一氏と真鍋大度氏による共作チ・カ・ホでセンシングした電波データを可視化・可聴化した作品で、手元にあるスイッチに周波数と表示されるグラフィックをいじることができる。無限に広がる電磁波とパターンを変えたグラフィックを見ていると、時間を忘れてしまいそうになる。

同じく、センシングによる作品でモエレ沼から一旦離れるが、札幌駅前の地下歩行空間(チ・カ・ホ)には菅野創+yang02によるドローイングモジュール。地下を行き交う人の数を計測しながら、絵を描き続けるという作品だ。こちらは、札幌駅についてまずはじめに目にしやすい作品かもしれない。

竹村真一さんの「触れる地球」で、地球規模の空と大地の動きを実感した #札幌国際芸術祭

で、場所をモエレ沼に戻して、ガラスのピラミッド内には竹村真一氏による「触れる地球」なども展示されている。地球を感じつつ、空と海と大地といった自然と都市のあり方を感じる札幌国際芸術祭ならではの展示といえる。

モエレ沼公園で、大地の偉大さを感じた。

札幌国際芸術祭の舞台としてなっているモエレ沼公園は、彫刻家のイサムノグチ氏による遺作としても知られている。「地球を掘りたい」という考えのもと、広大なゴミ埋立地を自然公園にする壮大な計画をもとに1979年から始まったプロジェクトは、プロジェクト中にノグチ氏が亡くなるもその意志を継いだ人たちによって2004年に完成した、という経緯がある。北海道ならでは、そして人と自然のあり方を考えさせられる作品であり、人々がくつろぐ憩いの場として愛されている公園だ。

モエレ沼公園の様子を動画のハイパーラプスで撮影してみた。広大な土地は、まさに「北海道はでっかいどう」と言いたくなる。

大自然をバックに中谷芙二子さんの FOGSCAPE #47412 #札幌国際芸術祭

今度は、札幌市内から南に移動した札幌芸術の森美術館。近代美術館と芸術の森美術館では、自然をテーマにしたさまざまな展示がある。芸術の森美術館では、一時間に一回、中谷芙二子氏の FOGSCAPE #47412を見ることができる。霧をテーマにした作品は、霧という自然現象を改めて見つめる機会になるものだ。

他にも、今回が札幌としてもはじめての芸術祭ということで、この機会に各地でさまざまな催しや企画が行われているため、ぜひ足を運んでみるといいかもしれない。札幌国際芸術祭をうまく見て回る方法として、友人の編集者である塚田有那氏がCBC.NETで「まだ間に合う!札幌国際芸術祭2014を3倍楽しむ旅案内」という記事を書いているので、そちらを参考にしてもらえれば。

各地の美術館や展示会場は距離もそこそこあり、見て回るコースなどは事前に考えておくことをおすすめする。公共交通機関や無料バスなど、さまざまな手段があるのでそれらを駆使して満喫してほしい。

都市の歴史、そこに住む人たちの意識とまちのありかた
実は、札幌には高校時代の修学旅行で来た以来のため、約12年ぶり?くらい。ほとんど初といってもいい。

そんなことで、札幌市内を見て回ってやはり気になったのは、都市がどう成長し、そこに住む人がどういう生活をしているのか、今回の芸術祭に対してどういった意識を持っているのかといったものだ。実際に、札幌国際芸術祭に携わっているスタッフとして働いている人たちや現地でお会いした方々に札幌の印象や状況などを伺ってみた。

札幌はかつてアイヌの人たちが住んでいた土地で、そこに明治時代に置かれた北海道開拓使らによって屯田兵などで都市づくりを行ってきたという歴史がある。つまりは、行政によるトップダウン型の都市づくりによって成長してきたといえる。そうした都市計画であったため、都市の区画もきれいな碁盤の目となっており、その都市の整然としている様子は、京都やアメリカ・NYのマンハッタンに近い雰囲気にも近い。

近代に入り、急速な都市の発展とともに開発されてきた経緯、そして開拓から100年弱しか都市の歴史をもたない、近代都市であると同時に人が生きた空気や跡といったものが感じられにくい、ということも言えるのかもしれない。あまりにキレイに整備された都市、豪雪地帯でもあるため街にはホームレスなどの存在も少なく、行き交う人たちは情報感度もそれなりにありハイソな匂いもする。しかし、整然とした都市化された様子に、どこか物足りなさを感じてしまう。

NYであれば、民族や人種の多様性などがあるのかもしれないが、札幌ではもはやアイヌの人たちという存在も次第に薄まっている状況。いわゆる「日本人」という大きなくくりの中で、札幌にいる人たちは住んでいるように思える。札幌に住み着いている人たちの多くも、自発的に渡り歩いたというよりも祖先をたどれば開拓という国策によって連れられた人が多く、目的別のコミュニティで分断された状態で過ごしてきた人たちが多いともいえる。

そのため、札幌市民をつなぐ横串のコミュニティや、共通認識を持った文化や取り組み、時に多様な人たちが集まるスペースやコミュニティといったものが少なく、それ以前からある細分化されたコミュニティを通じて生活をしてきたという歴史があるように思える。

北海道といえば農業や酪農が盛んだが、そうした農業や酪農を感じる場が札幌市内にはあまりなく、例えば都内などであるファーマーズマーケットなどといった取り組みも札幌では見る機会がなく、農業地域と都市部とが分断されているようにも思える。それぞれのコミュニティ同士による交流も多くはなく、もともと広い土地でもある北海道において、それぞれの北海道のイメージがあり、それぞれを強固につなぐ北海道というアイデンティティをもつことがなかなか難しいのかもしれない。

あわせて、広い土地と農業の発展は高い自給率を確立している反面、都市全体としては保守的な動きにならざるをえない。政治において北海道全体で保守が強いのも、そうした一次産業の強さにも関係している。急速な都市と経済の発展、綿密に計画されたトップダウン型の都市デザインは卸や流通などの業界は発展するも、もともとその地域に根づき取り組んでいた町工場などの工業地域を作るにはあまりに時間は短い。そのため、工業地域の少なさが北海道全域の特徴ともいえる。

それぞれに細かなコミュニティはあるものの、急速な都市と経済の発展、綿密に計画されたトップダウン型の都市デザインによって人々をつなぐメタ的なるものの不足、ハード先行によるソフトの少なさという歴史のある地域だからこそ、札幌に住む人たちのアイデンティティ、札幌に対する外からのイメージの良さの反面、ソフトに対する弱さ、肥沃な土地のもとに体外的な意識を持つことなくこれまで過ごすことができたという歴史がある。

日本全体としては高齢化、少子化の問題が待ち構えているなか、まさに北海道もその痛手を大きく受ける地域でもある。農業分野においては後継者問題は深刻な問題だ。JA自体の改革や、農家のIT化などさまざまな取り組みを行う必要がある。農家自体の負担を増やすのではなく、それをバックアップする国や民間企業の取り組みが急務といえる。これまで一次産業によって地域が安泰だったというある種の神話によって成り立ってきた札幌や北海道は、その神話が崩れ始めている目下の課題をどうにかしなければいけない岐路に立っている。

今回始めて芸術祭を開催したことは、市民全体を横串につなぐコミュニティであり、またアートという都市や人の生活の余白をもとに新しい意識を作り出すものとして、大きな意味を持つ。今回の芸術祭をきっかけに、さまざまなコミュニティが協力し、互いに札幌のあるべき姿、札幌としての未来を考える一つのきっかけになっているのだと感じる。

今回の芸術祭を踏まえて、もうすでに第二回目をどうするかという動きもでているという。動員数も目標である30万人を超えそうだということで、道外だけでなく道内、札幌市内に住んでいる人たちが今回の芸術祭に足を踏み入れ、そこで感じた何かが次につながっていくことを期待したい。

ちょうど9月27日にマチノコトが企画する横浜トリエンナーレのツアー企画では、横浜という都市の課題と、トリエンナーレによって生み出されたもの、これからの都市のあり方をどう見つめていくか、ということを考えるきっかけになるものとしても通じるものがある。アートプロジェクトだけではなく、都市のあり方、都市デザインをどう見据えていくかは、札幌だけに限らず全国の都市にいえることだ。

それぞれの都市には、歴史や抱えている文化、そこに住む人の意識など多様性と重層性をはらんでいる。だからこそ、その地域がもつ課題、その地域にいる人たちの意識を汲み取りながら新しい施策を考え続けることは、大きな意味をもつ。そこに、アーティストやクリエーター、起業家、政治家、行政、メディアといったさまざまな立場や分野を超えた人たちが協働し次なる道へと築いていくことの可能性がある。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です