NYCで体験したシェアバイク、徹底したユーザビリティと移動データについて

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以前のLinkNYCについてまとめたブログから少し時間が空いてしまった。今回は、NYC滞在中に使ってて便利だったシェアバイク「Citi bike」のことについて。

NYCの新たな移動手段として浸透した「Citi bike」

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Citi bike」はNYCのシェアバイクシステムで、2011年9月に企画がはじまった。本格的にスタートした2013年5月時点で、約6000台の自転車とマンハッタンを中心とした332ものステーション(駐輪場)が設置された。ステーションはソーラーパワーを利用しており、稼働電力も省エネだ。Citi bikeは行政が主導した公共サービスだが税金はほとんどかけておらず、Citibankが年間4100万ドルを6年間スポンサードしている。

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利用時間は24時間年中無休。対象者は16歳以上。料金は24時間パスで12ドル、72時間パスで24ドル(2016年10月現在)。1回の利用が30分以内であれば無料で、パス有効期間内であれば何度でも利用可能。1回30分以上の利用を過ぎると、15分おきに4ドルの追加チャージがかかる。つまり、24時間(or 72時間)のCiti bikeのアクセス権を購入し、30分以内の移動であれば無料ですというものだ。ステーション横の端末を操作し、クレジットカード(or デビットカード)があればその場で利用可能。逆に現金不可で、対面のパス購入はない。

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ステーションで自転車を借り、移動してどこかのステーションに返却。借りた場所と返却する場所が違っても問題ない。つまり、乗り捨てOKということ。

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ステーション脇の端末でパスを購入したクレジッドカードを挿入するとライドコードが発行され、使いたい自転車のドックにライドコードを入力するとロックが解除される。自転車を引き抜いて乗車し、返却はステーションで空いてるドックに戻すだけ。2回目以降の利用は同じようにライドコードを発行(以前のライドコードは利用不可)し、パスの有効期間中はそれらを繰り返すだけだ。

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24 or 72時間パス以外にも、Annual Membershipがある。Annual Membershipは月額14.95ドル、年間155ドルのパスで、オンラインで予約しカードを発行する。ただしカード発行には住所入力が必要なため、NYC近隣の人向けのサービスといえる。

スマホユーザーは、専用アプリからステーションと自転車台数の検索や自転車専用レーンの表示、25分を過ぎたらアラームが鳴るなどの設定ができる。自転車にはカゴはないがゴムで固定する枠のようなものはある。サドルの調整や3段階ギアがあり、自転車の鍵はなくハンドブレーキのみ。

2016年の3月現在では約8000台、600以上ものステーションが設置されるほどの規模になっており、ニューヨーカーの新たな移動手段として浸透している。

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ボストンを訪れたときにも同様なシェアバイクのシステム「hubway」が存在していて、Newbalanceがスポンサードしていた(New Balanceはボストンに本社を構えている)。地元企業のCSRとしても機能する枠組みなのだろう。

シェアバイクが生み出す都市の移動データ

さて、Citi bikeについて説明してきたが、特筆すべきはやはり圧倒的なステーションの数だ。地下鉄の駅数の何倍もあり、市内主要なエリアでは半径100メートル以内に必ずステーションがあるほど。一つのステーションに10台以上のドックがあり、台数の数倍ものドックが確保されている。

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使いたくなったらその場で端末を操作し、パスを購入した後はライドコードを発行するだけという手軽さはかなりの快適さがある。24時間パス、72時間パスは観光客向けとして利用しやすく、地元の人もAnnual Membershipを使えば格安に自転車が利用できる。値段の差があるのは、地元の人たちへの利益もつくりつつ、観光客にもサービスをを提供する観点ともいえ、誰でも使えるというユーザビリティが、シビックプライドを醸成するようなものともいえるだろう。このあたりは、行政サービスながら民間に運営が委託されているからこそ、持続可能なビジネスモデルとデザインを組み込んでいるからともいえる。

特筆すべきもう一つの点として、自転車の位置情報を把握する機能が内蔵しており、どこで乗りどこで降りたか、24時間パスユーザー、72時間パスユーザー、Annual Membershipユーザーそれぞれのデータがオープンデータ化されていることだ(個人情報はわからないようユーザー区分だけが把握できるデータになっている)。データは、一日の乗車データから入手刷ることが可能(詳しくはCiti bike System Dataを参照してほしい)。データは誰でも入手することができ、そのデータをもとにしたコンテンツを作成することができる。

個人ブログにて、データをもとにビジュアライズしたもの。
A Tale of Twenty-Two Million Citi Bike Rides: Analyzing the NYC Bike Share System
http://toddwschneider.com/posts/a-tale-of-twenty-two-million-citi-bikes-analyzing-the-nyc-bike-share-system/

The New Yorker内にて、1ヵ月のCiti bikeのデータをもとにビジュアライズしたもの。
Interactive: A Month of Citi Bike
http://www.newyorker.com/news/news-desk/interactive-a-month-of-citi-bike

これらのデータから、新たなビジネスチャンスを見出したり、批評、考察の素材としたりすることが可能だろう。このデータからは、都市内をどこからどこへ行き、どういったところに自転車が滞留するかなどのあらゆる移動データを測定することができる。まさに、“都市内移動”というスモールなデータを把握する一つの手段といえる。

誰もが手軽に自転車を利用するためには、定期的に自転車の配置を変えたり、ときにはステーションや自転車そのもののメンテナンスも必要になったりする。それらのメンテナンスを、データをもとにどの自転車がどのように移動したのか、移動距離や補修の具合などをチェックできる。将来的には、IoTの仕組みをもとにメンテナンスを予見したり効率的な自転車の配置や新たなステーションの配置をデータをもとに組み立てたりすることで、効率的な都市の自転車利用を促進することができるだろう。

こうしたデジタル化、データ化が進んだシェアバイクシステムを導入することで、結果として管理にかける人的コストも抑えることができる。こうした仕組みも、ビジネスを基礎にしながらいかにしてコストを下げていくかを考えようとする原理が働いているからだ。移動データという新たなデータを生成することによるマーケティングデータや、新たな市場を生み出す種も創造することによる経済的効果もあるだろう。

ユーザーに対しては徹底したユーザビリティとともに、移動の新たな手段を提供し、そこで作り出す都市の移動データをオープン化することで、NYCを軸とした新たなビジネスを創出する。オープンデータの観点からみても、オープンデータによる経済効果を作り出す一つの事例ともいえるだろう。

東京がCycling Cityになるためには

NYCのシェアバイクのことを説明してきたが、対して日本のシェアバイクはどうだろうか。東京では、ドコモが中央区や千代田区、他にも、港区や新宿区などもサービスを提供しており、利用エリアは拡大しつつある。

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個人的な感想としては、ステーションの数も自転車の数も多いとは言えない。日本では、まずは実証実験という形でスモールで始めることが多いが、こうしたサービスはスタート時から圧倒的な数とインフラを提供してこそはじめて機能する。

さらに、利用には事前にユーザー登録が必要という点が使い勝手を悪くしている。今この瞬間に自転車を使いたいのに、登録の手間やウェブで操作することの手間は、ユーザビリティの視点で考えてみたときの設計は良いとはいえないだろう。

東京でもシェアバイクを本格的に展開しようと考えるのであれば、東京を「Cycling City」にするという大きなビジョンが求められる。もちろん、シェアバイクの仕組みだけを導入すればいいわけではなく、自転車専用レーンの導入や、自動車の通行を規制し自転車や歩行者が通りやすい町並みにするという、Cycling CityやWalkable Cityとなれるインフラ整備が必要だ。国際的にも、都市のインフラ整備のなかで自転車への力を入れる都市は、ヨーロッパなどの都市を中心に増えてきている。

シェアバイクの仕組みを民間に委託することで余った予算を、こうしたインフラ整備に予算を投入するなど、行政と民間における役割を意識し、それぞれがやるべきことを明確にすることによって、都市のあり方も大きく変化させることができるだろう。

個人的には、東京はCycling CityやWalkable Cityとなれる可能性は大いにある。特に東京の東側は土地が平らで起伏がすくなく、移動しやすい環境がある。私がオフィスを構えている日本橋はまさにそうで、北は浅草、西は神田・神保町、南は銀座・新橋、東は清澄白河といったエリアを、半径2〜3キロ圏内で、かつほぼ歩きか自転車で移動することができる。

東京駅から三越前や日本橋まで歩きや自転車で移動したり、神保町や蔵前、浅草まで移動したりする外国人は多いかもしれない。こうしたインバウンド向けに自転車整備を進めることで、都市全体を楽しむコンテンツを提供することも可能だ。

ユーザーにとって何が必要な都市機能なのか。民間ができること、行政ができることを考えたとき、もっと都市は面白くできるはず。そのための柔軟なアイデアとそれを実行するための多種多様なアソシエーションを作っていくべきだろう。