僕たちは、自分たちの国の歴史のことを意外と知らない

Pocket

7月も終わり、8月がやってきた。8月で思い出すのは、実は母方の祖母の命日だったりする。しかも、自分の誕生日の前日ということとあれば否が応にも思い出す。

そんな祖母は、戦争中に台湾に疎開し、ことあるごとに台湾の話をしていた。父方の祖父も戦争中には通信兵をしていたらしい(賞状が実家にあったが、戦争のことは一切話さなかった)。自分たちの祖父母世代が亡くなると、もはや日本には戦後生まれしかいなくなると、戦争が終わって60年以上たったの月日を、お盆や終戦記念日を迎える夏はいつも感じさせる。

歴史の記憶というのは、その当時を経験した当事者の人たちしか分からないものは過分にある。けれども、少しでもその当時のことを理解しようと取り組むことはできる。今の自分達と違う慣習、文化、思想などを、自分たちと違うねと思うんじゃなくて、その当時にそうしたものになった経緯や、その思想が持つことの意味みたいなものを理解することで、歴史から学べるものは多くある。

えてして自分のことを案外と知らないように、自分の国のことをしっかりと知ってる人は多くはないんじゃないだろうか。特に、若い世代ほどそうかもしれない。それが戦争のことと言えば、すで終戦から68年近くが過ぎ、なおさら戦後生まれの人たちだらけになるからこそ、歴史を学ぶことの重要性は増してくる。

そんなことを、上映前に試写会に呼ばれて観てきた映画「終戦のエンペラー」を見ながらふと考えた。

「終戦のエンペラー」は、日本が第二次大戦で天皇が玉音放送をおこない、無条件降伏をしたあとのGHQであるマッカーサー最高司令官が日本に降り立つところから始まる。いかに日本を占領するか。そのためにはどのように戦争責任をとり、民主主義として独立させるかということを模索した時期でもあった。

欧米的な発想は、戦争責任を逮捕し連邦裁判にかけるという単純なロジックが働く。そのため、戦争を指揮した天皇をすぐさま逮捕し、戦争責任を取ってもらうことで片がつくと思っていたのかもしれない。しかし、果たして天皇を裁判にかけることができるのか。神格を有している天皇という日本独特の存在をどう扱えばいいか。そこで、マッカーサーの部下フェラーズ准将が東条英機、近衛文麿、木戸幸一、関屋貞三郎などの天皇の側近や近しい人たちに話を聞きながら、日本における天皇の存在と、天皇の戦争責任について紐解いていくストーリーだ。

この映画はハリウッドで制作されているが、プロデューサーは日本人である奈良橋陽子氏などが務めている。劇中にも登場する関屋貞三郎氏が奈良橋陽子氏の祖父ということで、まさに自身の家系と日本という国の歴史のアーカイブを試みた映画の1つと言えるものかもしれない。

この映画の主人公はフェラーズ准将という歴史の教科書にも載らない一軍人だ。その准将は、日本の文化に精通していたということから天皇についての調査の特命をうける。その主人公の目線のまま最後の最後まで続いていく。この欧米人の目線で続くという作りは、実は現代の欧米的な発想に浸っている僕達自身に対して、過去の日本の、戦後の日本における空気と、そして「天皇」というひたすらに謎で、それでいて絶対的な存在として存在していた人物へと迫り、次第に真実へとたどり着く作りになっている。

戦後生まれの人たちからすると、天皇は教科書で習うような「象徴天皇」という認識でしかなく、なぜにそこまで象徴となり、なぜにそうした独特な制度となっているのかをしっかりと理解できている人はいない。映画の中の天皇は、まさに当時のとしての絶対的な存在感を持ち、マッカーサーも最終的に天皇制は続けるべきと考え、いかに日本は天皇に対して深い考えと重きを置いていたのかを感じさせるものになっている。

多少のネタバレかもしれないが、タイトルでエンペラーとは付いてるものの、昭和天皇がでてくるのは本当に最後の最後の、マッカーサーが直接天皇と対面する有名なシーンのところだ。それまでの、第三者から見聞きする天皇の存在や有り様を聞き入ったあとに、昭和天皇を正面から見た瞬間は、まさに日本においていかに天皇がそこに存在し、それでいて、いかに戦争に対して受苦じたる思いを持ち責任を果たそうとしたかが伝わる瞬間であり、一番のクライマックスである感動の瞬間でもある。改めて、天皇や戦争について、日本について考えさせられる映画になっている。

もちろん、映画であるがゆえにエンターテイメントとしての多少の脚色や史実と違うところも一部ある。全体としてはフェラーズ准将のラブロマンスというフィクションと、日本の天皇に対する戦争責任追求というノンフィクションとがうまく折り重なった作品でもあり、この映画を見てすべてが真実だと思ってはいけないのは確かだが、ラストのクライマックスシーンの箇所や、当時の天皇の有り様などはしっかりと描かれていたように思える。

これまで日本では、こうして天皇について正面から切り取り、しっかりと総括した映画はあまりないのではないだろうか。そうした意味で、日本映画ではなくハリウッドで作られた意味も分かる。同時に、今の日本人の視点から見ても、過去の歴史を振り返る1つのいい機会となる。

改めて、僕たちは自分たちの国のことを意外と知らない。ぜひ、若い人たちに観てもらいたい映画だ。8月15日は終戦の日でもある。暑い夏の中、涼しい映画館の中ででもいいから、歴史を振り返る時間を取ってみるのも悪くない。

映画『終戦のエンペラー』公式サイト http://www.emperor-movie.jp/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です