今年も開催するNovelJam、その可能性について

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日本独立作家同盟でこの数年取り組んでいるのが「NovelJam」というイベントだ。

2017年2月に第一回目を開催し、2018年2月には第二回目を開催。「著者」、「編集者」、「デザイナー」がその場で集まり、即席のチームを作ってゼロから小説を書き上げ、校正し、表紙などをつけて「本」にして販売(電書ストア)までを行う「短期集中型の作品制作中店販売企画」だ。

創作から出版、販売までを短期間ですべて行うため、初対面で会った同士であっても、最後までものづくりをしなければならず、2泊3日という短い時間のなかにもかかわらず、そこには濃密な時間を過ごすことができる。いわば「精神と時の部屋」のような、それくらいの充実した時間を過ごすことができる。

企画の狙いや考えについては、いくつかのメディアにも取り上げてもらっているので、そちらを参考にしてほしい。

みんなで創作の可能性 NovelJam2018観戦記 ものかき未満 : 創作ハウツー | monokaki
お題は「平成」!たった3日で書きあげて売る――小説ハッカソン「NovelJam2018」イベント潜入レポート! | ブクログ通信

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また、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)が発行する季刊誌の8月号に、NovelJamのこれまでの取り組みや、今後の可能性について寄稿させてもらった。特に、可能性として重視したのが、地方でNovelJamを行うことについてだ。

リアルの場で集まり、作品を作る、いわばアーティスト・イン・レジデンスのような形に近いNovelJamは、例えば、城崎温泉で取り組まれている「本と温泉」のように、その地域の歴史や文化を背景した作品づくりを行うことが、その地域を盛り上げる一助にもなるはずだ。東京で開催するだけでなく、地方での開催も今後ぜひ実現していきたく、そのためにも現地で協力してくれる企業や団体も見つけていきたいところだ。

また、NovelJamというイベントそのものも、仕組みをできるだけオープンにしていき、「自分たちでも開催したい」という人たちをサポートしていく体制も作っていけたら、と思っている。私達が主催するのではなく、ゆくゆくはノウハウなどを共有し、地域の企業や団体がNovelJamを主催でき、各地のNovelJamでネットワークを作っていくことで、地方在住で小説投稿サイトに投稿している方、コミケなどに出展している作家やイラストレーター、デザイナーなど、あらゆる出版に関わる人たちの創作の場の一つになれたら、という構想を持っている。

さて、これらの企画を、出版目線だけでなく、違った目線で切り取ってみると、出版という過程における「自分たち事」を生み出すコミュニケーションのデザインを設計意図として組み入れている。

それぞれが違った立場の人間と昼夜をともにし、同じ釜の飯を食いながら作品づくりに取り組んでいくことによって、互いの立場の意見のぶつかり合いや衝突を生み、最後はものづくりの達成感と感動を得る、一つの「共通体験」を作り出すことができる。そうすることで、一つの作品をそれぞれが「自分事」、ひいてはチーム全体による「自分たち事」として捉えることができる。

短期間での制作のため、時間をかけて作り上げる一般的な商業作品などと比べると荒削りな部分もあるかもしれない。とはいえ、作品のクオリティそのものだけでなく、同じイベント・場を共有した「仲間」がいることによって、それぞれが自分の居場所や会社、自身の活動に戻ったときに、ここでうまれた「つながり」が新たな価値を生み出すに違いないと思っている。

そうした意味で、NovelJamはイベントとしての体験のみならず、参加者自身の様々な経験、そして参加者全体による連帯と一体感による「つながり」による関係構築が生まれているといえる。「自分たち事」を生み出す仕掛けとして、私は最近よく「コミュニティ・キャピタル」の理論を参照しているのだが、実はこの理論を知る前にNovelJamを作った。しかし、あとでこの理論を知り、この理論をもとにNovelJamが分析できると思い、驚いたものだ。(コミュニティ・キャピタルに関しては、最近講演などでもご紹介してるが、どこかでじっくり書いてみたい)

そして、第三回のNovelJamを今年の11月の三連休で開催する。すでに参加者も募集を開始している。自身のスキルアップ、経験、新たな仲間集めをしたい人など、いろんな動機があるかもしれないが、参加して損はないはずだ。

▼参加申し込み、参加概要はこちらから

特に、第二回目から公募したデザイナーに関しては、私達が想定した以上に参加者らにとっても大きな収穫があったものだと実感した。

第二回目にデザイナーとして参加した杉浦昭太郎さんが、制作過程においてデザイナーとしてどういう考えで取り組んできたのかについて、考察をまとめている。読んでいて、企画者としても学びの多いブログである。

参戦記:ノベルジャムでデザイナーはいかに鍛えられたか|sugiura.s|note

11月開催に向けて、すでにプレでいくつかイベントを行っている。8月に開催したイベントでは、杉浦さん、同じくデザイナーとして参加した山家さんらによる参加者視点からのNovelJamにまつわるトークセッション、後半はBCCKS松本弦人さん、グラフィックデザイナーの町口覚さんらによる対談が行われ、これからのデザイナーのあり方について議論がかわされた。トーク内容については、NovelJam2018秋のディレクターである小野寺ひかりがブログにまとめている。

2018-08-18 「”本”と”デザイナー”町口覚+松本弦人、杉浦昭太郎+山家由希」 NovelJam2018秋 プレイベント – 小野寺ひかりのブログ

デザイナーとしても、通常の商業制作とは違った、ある種の同人的な作品作りに携われるからこそ、いままでの制作過程や制作思考とは違ったものを、NovelJamの作品にぶつける良い機会であるはずだ。一般的な枠組みからどんどん外れた、自由で創造性のある表現を作り出せる機会を提供することこそ、非営利団体が主催するイベントならではだと考えている。

著者や編集者にしても同様だ。一般的なやり方とは違った、新たな表現、作品のあり方に挑戦しても良いはずだ。もちろん、短い時間で初対面の人たちとそうした深い議論をするのはかなり大変だろう。とはいえ、互いに真剣な「遊び」だからこそ、いつもとは違ったやり方に取り組んでみてもいいはずだ。型から脱却し、新たな挑戦をする一つの機会、ある種の「失敗」ができる機会としてNovelJamという場を利用するのもありなのではないだろうか。

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9月20日には、これからの「編集」について考えるトークセッションが行われる。これまでNovelJamが行ってきたこと、noteが取り組んできたことなどをクロスさせながら、新しい時代の「編集」について考える機会を作っている。

出版変革期の『編集』を考える ── NovelJamとnoteが示す新しい編集者像 | Peatix

さらに、今回11月に開催するNovelJamでは、クラウドファンディングにも挑戦している。イベントを盛り上げてくれる人たちの多様な関わりを作り出すための手段として今回導入した。特製Tシャツや電書ファイル、さらに、当日の観戦も可能だ。NovelJamの魅力の一つは、作品がその場で作られていく熱量を感じたり、作品をプレゼンする様子を見たりすることにある。興味がある方、応援したい方はぜひ支援をお願いしたい。

回を重ねるたびに、イベントとしてのブランドもできつつあり、また、参加者同士でその後に様々なコラボレーションが生まれたりと、NovelJamが一つのコミュニティとして機能しつつある。運営側としても、企画を作り上げるなかで様々な企業とコミュニケーションもさせてもらっている。審査員の方々にも大きな協力や助言をいただき、ともにNovelJamという企画を盛り上げてもらっている。良い場となれるよう頑張っていくとともに、一緒に取り組みたい、参加してみたいと思った人は、ぜひエントリー、もしくはお問い合わせをしてもらいたい。