年末年始、とある原稿のゲラと向き合う時間を確保している。その原稿は、日本における情報デザインのパイオニアの一人である故・渡辺保史さんの遺稿「Designing ours:『自分たち事』をデザインする」。2013年に亡くなった渡辺さんの遺稿を出版するプロジェクトに参加させてもらい、そのなかで原稿のゲラを出版できる形に編集する作業を行っている。
渡辺さんといえば、2001年に出版された『情報デザイン入門』が知られている。デザイン業界、編集業界の人間として読んでおくべき一冊といえる。
渡辺さんはもともと出版社に勤め、そこからフリーになり、科学技術のコミュニケーションを中心にさまざまなプロジェクトに携わった方。出版物やインタビュー、執筆された記事、講演されているお話を動画で拝見していて、業界の大先輩の一人としていつかゆっくりお話したいと思ってた矢先、その願いもかなわないままになってしまった。
そうした折、日頃懇意にしている富田誠さんと上平先生から「渡辺さんの遺稿を出版するプロジェクトがある」と伺った。遺稿は、2001年の『情報デザイン入門』後の彼が取り組んできたプロジェクトや、SNSの隆盛、東日本大震災を経た日本における情報デザインのあり方についての論考がまとまったものである。
そんな原稿を出版するためのプロジェクトに、ぜひ参加したいと思い、そこからクラウドファンディングの準備、広報、そして出版するための入稿の準備やイベントづくりなどがある。
震災後に向き合ってきたこと、社会における分断とどう向き合っていくか。インターネットがもたらした功罪とどのように向き合っていくか情報デザインが真に社会に開かれていくために考えるべきについて、亡くなる直前まで書き綴った渡辺さんの生のお考えに触れることはできる。
もちろん、この原稿ですべてが完成してるわけではなく、未完の章や原稿と、それに盛り込む予定だったいくつかのテキストやその断片がここにあるわけで、そんな原稿をいの一番に読ませていただくこと自体もとても光栄なことだ。
同時に、未完の原稿に対して、差し込むべき他のテキストや渡辺さんの考えがまとまったメモを、それでも本として成り立つためにどう編集するかについては、なかなかに骨が折れるもの。そのための編集作業に取り掛かっており、渡辺さんの文字を読む度に、渡辺さんの言葉が浮かび上がってくるような(直接声を聞いたことはないが)感覚を覚える。歴史にifはないが、渡辺さんとともに議論しながら、この原稿を真の意味で完成させたいと思うくらいのものだ。
だからこそ、この遺稿をもとに、渡辺さんが残したもの、それを継承しながら、今の世代、これからの世代が考えるべきことのきっかけとするために言葉を残していく。短い時間ではあるが、自分なりにできるかぎりで原稿を良いものにしていこう。
クラウドファンディングのプロジェクトページはこちらから。3月には、出版イベントも控えている。ぜひ、情報デザインに関わる人は、ファンディングに参加してほしい。